2011年4月18日月曜日

トロッタ13通信(1)

1.トロッタをめぐる様々なこと

(其の一)

「トロッタ」とはどういう意味かと、よく訊かれる。
 わからない。夢で見た、レストランの名前なのだ。
 夢から覚めてすぐに、『トロッタで見た夢』という詩を書いた。



『もっとはやくあなたに会っていればよかった』
目の前の女がつぶやいた
若いとはいえない、それどころか母親のような年齢の
私に向き合った女のつぶやき

ガラス越しに見える、港の風景
錨を巻きあげた船が
白い航跡を描きながら、出ていこうとしている
女の言葉を思い返しながら
私はその風景を、ぼんやりと見ている



 詩は、このように始まる。
 これが新橋にあるレストラン、「トロッタ」でのこと。
 長崎の作曲家、酒井健吉さんが、曲にしてくれた。
 初演は長崎で、2005年8月13日(土)。酒井さんが主催する、kitara音楽研究所の第2回演奏会であった。編成は、朗読、ソプラノ、ヴァイオリン、ピアノ。
 再演は、2007年2月25日(日)の、第1回「トロッタの会」において。
 三演は、2007年7月22日(日)。改訂されて朗読がなくなり、ソプラノとヴァイオリン、チェロ、ピアノによる曲となった。
 トロッタの始まりの、大切な場面がここにある。

(其の二)
『伊福部昭 音楽家の誕生』を、1997年4月25日付で発行した。
 あとがきに、14年がかりの作だと書いてある。
『タプカーラの彼方へ』『時代を超えた音楽』を続く三部作の始まりだった。
 やはり、そのあとがきに、詩の断片を記した。



 わが立つ鳥はみずらに歌い



 夢で、伊福部昭(*以下、敬称略します)に歌唱指導を受けた。伊福部の歌曲である。詩は歌の始まりである。旋律がわからない。すると伊福部がいった。
「歌には、歌われるべき旋律が自ずから決まっているんです。何も考えず、歌の通りに歌えばいいんです」
 この曲を、田中修一さんが曲にしてくれ、第1回「トロッタの会」で初演した。編成は、ソプラノ、ヴァイオリン、ピアノ。
 2006年2月8日、伊福部は逝去した。伊福部について私が講演をし、戸塚ふみ代らの演奏も行なった、徳島県北島町・創世ホールの「文化ジャーナル」に詩の全文を掲載した。



立つ鳥はみずらに歌いて
天たかく舞わんとす
その声 人に似て耳に懐かし
温もりもまた 人に似る
鳥 消ゆ
再び会う日の来ぬを われは知る



 田中修一は、伊福部に教えを受けた。第1回「トロッタの会」は、彼にとっての師が亡くなって、ほぼ1年後の開催である。師を想う意味でも、『立つ鳥は』を出品したと解している。
 再演は、2008年1月26日(土)の、第5回「トロッタの会」。
 田中修一は、「トロッタの会」に第1回から途切れずに出品を続ける。作曲家では、最古参となっている。
 伊福部昭に、「トロッタ」の大切な源がある。

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