2009年12月1日火曜日

「トロッタ通信 10-23」

もとに戻りましょう。今井重幸先生の『時は静かに過ぎる』について、締めくくります。

先生のお言葉です。


「今回の曲は、作品のドラマ性を意識して書きました。紀光郎さんがアポリネールの詩をもとに構成されましたが、その詩句に合うメロディをつけています。不倫の現場に踏み込まれ、追いつめられた男が壁の中に消えるという、奇想天外ですが、わかりやすい話ともいえるので、音楽もまた、そのようなメロディ、リズムになっています。作曲家とは、作品の理念や意図、演出効果を考え、また起承転結やストーリーに沿って書かなければいけません」


アポリネールの作品『獄中歌-ラ・サンテ刑務所にて』に、「時は静かに過ぎる」という一節があります。

同じく『病める秋』に、「哀れな秋よ」。

さらに『狩の角笛』には、「思い出は狩の角笛」「風のなかに音は消えてゆく」があります。

探せばまだまだあるのでしょう。いずれも、今井先生の曲に生かされています。


『時は静かに過ぎる』の練習が続いています。根岸一郎さんが歌い、赤羽佐東子さんが歌っています。楽器の方々によって、音楽の全体が見えてきました。一場のドラマを観る思いがいたします。このような曲は、あってもよかったのに、かつてトロッタにありませんでした。オペラでもない。歌曲でもない。芝居でもないミュージカルでもない。もちろん器楽曲でもない。っしかし、そのすべての要素を持っている音楽といえるかもしれません。今井重幸先生とは、純粋性という、近代の毒に冒されてしまう以前の精神をお持ちなのでしょうか。

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