5年目となりました「詩の通信」、第5期第1号を、やっと今日、印刷できました。
今期から、手渡し100円、郵送120円の定価を設定しました。ご了解いただきたいと思います。
ぜひ、お申し込みください。
先日、奇聞屋でこれを詠みました際は、その場にいた方々の最寄り駅を聞き、詩文の駅名と置き換えていきました。
今後も、詠む機会がある場合、その方針で行きます。
トロッタのサイトですが、第1号のみ、掲載させてください。
夏の旅 木部与巴仁
眼を覚ますと新宿だった
開いた扉から乗りこんでくる
花火大会帰りのカップルが二組 三組 四組
眼を覚ますと大船だった
どこの駅でどう乗り換えたのか
眼を覚ますと高円寺だった
女の思い出
眼を覚ますと赤羽だった
消えかけている ビルの灯(あかり)
眼を覚ますと五反田だった
アスファルトの匂いのする駅
川べりをどこまでも歩いた
眼を覚ますと国分寺だった
瞼の耐えがたい重さ
眼を覚ますと田町だった
夏の蜥蜴(とかげ)は虹色に光り
乾いた地面を駆けてゆく
眼を覚ますと町田だった
眼を覚ますと水道橋だった
眼を覚ますと品川だった
携帯電話でメールを書き続ける 汗まみれの男
眼を覚ますと西船橋だった
顔を合わせた瞬間 視線を逸らせて動かない女は誰?
眼を覚ますと登戸だった
赤すぎる夕焼けが 窓の向こうを染めている
この夏が遠ざかれば遠ざかるほど
今は遥かな 来年の夏が近づくのだと思う
眼を覚ますと大久保だった
誰もが見知らぬ 行き場のない 予感のない旅人
行く人の無意識に潰された蟬の屍
眼を覚ますと横浜だった
空を仰いだままこときれた顔が私に似ている
死の瞬間 蟬が見たものは何?
眼を覚ますと大船だった
眼を覚ますと日暮里だった
古ぼけた木造アパートでいさかいをした 三十年前の冬
眼を覚ますと荻窪だった
眼を覚ますと千駄ヶ谷だった
眼を覚ますと巣鴨だった
もうずっと 私はこのままに違いない
眼を閉じたままの旅
午後一時の駅前は太陽に焼かれ
眼を閉じたままあてどなく
町は沈黙する 逃げたくても逃げられない
蛾が一匹 窓辺で音もなく
暴れている 夏の宵
眼を覚ますと川崎だった
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