2010年6月15日火曜日

橘川琢さん個展「夏の國」の案内

 橘川琢の作品個展が、2010年も開かれる。第4回の開催である。関わる者として、嬉しい。継続して初めてわかることがある。聴いていただく方にはわかっても、聴いていただこうとする当事者には、なかなかわからないことがあるのだ。橘川琢も、わかりたいし、感じたいのであろうか。自分自身を。共に舞台を創ろうとする者たちも、橘川と一緒に、自分自身をわかりたい。感じたい。
 個展を「夏の國」と題した。木部与巴仁の詩、『夏の國』から取られている。2009年末、橘川は、やはり木部との共同作業として『冬の鳥』を初演した。冬の次は夏。意図してのことではなかった。無意識に選び取られた題名である。意識してはいけないのだろう。『花の記憶』に始まる、“花の三部作”も同様だ。2作目の『死の花』には至ったが、完結編の『祝いの花』はまだできない。時期を待っている。意識しなければならない時もある。しかし、無意識に、自然に形になればいちばんよい。
『春秋花様』は2010年3月に初演された。桜を愛する橘川の心情が染め上げた曲。初演者ふたりの演奏に満足をしたという。同じ演奏者による再演で、期待が持てる。
『うつろい』は2008年1月の初演で、演奏者を変え、時に編成も変えながら、今回が5度目の演奏となる。歌は初めての男声。橘川の代表曲だ。
『日本の小径(こみち)』は“ピアノ叙情組曲”の第1集で、2007年2月に全曲が演奏された。「瑠璃の雨」「夏の栂池(つがいけ)」「風夢(かざゆめ)」「秋を待つ間」の、各曲名が美しい。ヴィオラとピアノによる演奏となる。
『biotope II』は今回が初演。作曲者によれば、“閉じた生態系の中で循環する水、命”を意味する曲名で、第1番から3年を経て、第2番が生まれた。演奏は、ピアニストの感性にまかされている。上野雄次の花いけと合わせて一曲となる。
『都市の肖像 III』も初演である。2008年7月に第一集「ロマンス」が全曲初演、同年10月に第二集「摩天楼組曲」が全曲初演。二集には“補遺”版も生まれた。そして三集。他の曲も合わせて考えると、橘川にはいくつかの作品集がある。その総体が橘川琢であり、彼の音楽世界である。
『夏の國』の初演をもって、第4回個展は最後を迎えることになる。『冬の鳥』と同様、恋愛詩である。不思議な思いだ。橘川と、恋愛をうたいあげている事実が。表面をいえば恋愛だが、それは人を人として生かす情熱だろう。音楽と同じである。
 橘川琢の心を、音楽として、お聴きいただければ幸いです。
(木部与巴仁)

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