*写真は、二階席から見た、しらかわホール。舞台は、「花の記憶」の並びになっています。最前列中央に、上野雄次氏による、花生け用の台が置かれます。(提供;橘川琢)
おかげさまで、満員のお客様に、最上の演奏をお聴かせできたと思います。上野雄次さんの花生けはみごとでした。この舞台では、これまでになく、上野さんの存在を感じながら詩唱することができました。
橘川琢さんの編曲はみごとでした。実は先ほど、阿佐ケ谷駅にて、橘川さんから、録音CDを受け取ったところです。聴かせてもらいましたが、出演者9人の合奏になってゆくクライマックスは、鳥肌が立ちました。明確な音にはなっていませんが、上野さんが鉛の壺を割って、真っ赤な花を散らすのです。
お客様には、うぬぼれを承知でいわせていただけば、得難い体験になったのではないでしょうか。
私にとっても、得難い体験でした。
実は最後の箇所で、声が裏返ってしまいました。橘川さんには、それがかえって本気に聴こえたといっていただきまして、もちろん本気には違いないのですが、いささか生(なま)です。少なくとも、私の意図したことではありません。おまけに、裏返った瞬間、両腋の下の筋肉を痛めました。力が入りすぎたのです。お恥ずかしいことです。
名古屋まで来ていただいた、音楽評論の西耕一さんには、力強さとか迫力だけではない、やわらかな声が聴けてよかったといっていただきました。個人的に、強さや他を圧倒する力、自分のからだが痛むような力は、もう必要ありません。音楽の神さまが、私に配慮して、次の課題を与えてくださったのだと思います。
トロッタ9に向けて、精進していきたいと思います。いささか長くなりますが、詩「花の記憶」を掲げます。
花の記憶
木部与巴仁
一
花となり生きる
人となり生きる
思いを託す
色と形
立つ そこに居る
花の姿
止まったまま
時間は水に浮かぶ
命も映えて
心に落ちる静かさ
咲けよ
音は無く
花となり生きる
人となり生きる
夜
暗闇で 花は
変わらずにある
二
すべてがあればいい
そう思い 花に向かう
人生の一切
世の一切が 器にあれ
思いは春にたかぶる
ところが 花は
そんな気負いなど知らぬ気に
自然なのだ
支えるものもなく
すっくと立つ
空気の隙間に
危うさと心地よさの
得もいわれぬバランス
面影が心に沁みる
生まれながらに持った
色と形
哀しみなど無縁
花は何も語らない
怖いほどの潔さ
その花に向けて
話しかけたい私がいた
三
器の陰に
花を見る
じっとしている
赤
氷雨が落ちた夜
伝え聞く
人の死
普段と変わらず
朝には新聞を開いた人が
昼にはこと切れた
ひとりの部屋で
ひとりのまま
好いた人があり
嫌った人があり
その一生を映していた
花の面
誰もいない
雨に濡れる公園
足跡だけを残して
あの人も あの人も
あの人も
死んでゆく
そんなつもりではないのに
心に残った
花の赤を
手向けようとしている
*出番直前に待機する、アーティストラウンジです。左手奥に楽器置き場が見えます。上野雄次さんが、鉛の壺を作成中。この中に、真っ赤な花びらが詰めこまれます。上野さんの背後は、チェロの新井康之さん。(提供;橘川琢)
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