2010年10月29日金曜日

「トロッタ12通信」.17 (*10.22分)

メゾソプラノ松本満紀子さんの2年目のリサイタル、「途にて2」が、代々木上原のムジカーザで行われました。仕事が終わらず、プログラムがかなり進んでからおじゃましました。私もきちんと努めなければと思わせてくださいました。

 22時半スタートにて、渋谷で、清道洋一さんの『イリュージョン』を初めて合わせました。かなり喉を痛めました。発声に無理がありました。夜中に大声を出すことにも、やはり無理があります。ギター・ソロを弾きました。練習でうまく弾けても、本番で弾けるわけではありません。詩唱だと、練習より本番で力を出す自信がありますが、ギターはそうはいきません。本番の方が、確実に力は失われます。ひたすら練習するしかなく、ひたすら、舞台で弾き続けるしかありません。しかし、その機会は、トロッタ12まで一度もありません。不安です。
 朗読という表現を始めたころ、これならば、芝居と違ってストレスなしにできると思いました。芝居のように、絶対に暗記しなければいけないことはなく、むしろ詩なり散文なりの印刷物を手にし、向き合いながら詠むスタイルがありますから。方法論はひとりひとりにあるので、基準はなく、たどたどしくても、それがむしろ、その人の持ち味だと思ってもらえる−実際にそう思ったわけではありません−。だから、オープンマイクという、飛び入り参加自由の形式があるのです。舞台装置など必要なく、詠みたいと思った時、そこが舞台になります。
 しかし、私は間もなく、誰でも、いつでもできるという自由さを、自ら放棄します。練習を重ね、準備を重ね、表現の基準を作りました。それがトロッタです。そこからはずれるわけには行きません。より大きな、幅のある可能性を求めることはあっても、何をしてもいいとは思いません。それはひとりではなく、大勢の人と舞台を踏むからです。詩人はひとりです。だから何をしてもいい。しかし、詩を音楽としてとらえる以上、一人の勝手は許されません。−トロッタ12の後、12月12日(日)に、私はソロライヴを行います。それはもちろん、トロッタとは違うものになるでしょう。ここに書いているのは、自らと自らの表現を省みる、大きな問題です−



『凍歌』もまた、札幌とは限定しません、小樽あたりがいいでしょうか、北の町を舞台にしています。副題にあるように、これは女の詩です。読んでいただければ、そのとおりだという内容です。ただ、第三連に、男のことを書いています。
「淀みの水をすくい/草の根を食(は)み/焼けた土に身を焦がして/見えない道をゆく」
 女は、そんな男に向かって、歌っています。歌は、想う人に向かって歌われるものだと思います。ひとりで歌う歌もあるでしょうが、私には、ないようです。ひとりの時、私は歌いません。私が詩を書き、歌う、詠う、うたう時、私の目には、見えない誰かの姿が映っているのです。
 堀井友徳さんは、『北都七星』と『凍歌』を、女声三重唱の作品としました。重唱、合唱、複数の人の声が重ねられることの意味を、申し訳ないながら、私は言葉にできません。音が重ねられて、ひとりでは出せない音が生まれ、聴こてくるのでしょう。声の場合は? ソプラノ、メゾソプラノ、アルトと重ねる意味は? 音楽的にではなく文学的に解釈します。歌のは三人でも、「北の街角で聴いた(三人の)女の声」ではないでしょう。三人の女が歌っているわけではない。女はひとりです。ひとりの女の多重的な心の声が、聴こえてくるのではないでしょうか。私の心の声も、一層ではありません。誰もがそうだと思います。白い心もあれば黒い心もあり、青い心もあれば赤い心もある。それが人です。その声が重ねられて、音楽として聴こえて来る。そのように、トロッタでは初めての形式、女声三重唱を受け止めています。−前回、今井重幸先生の『室内楽のための組曲「神々の履歴書」に、合唱として出させていただきましたが、このあたりの意味をわからないまま出まして、音楽的にも思ったとおりに歌えませんでした。申し訳ありません。
 堀井さんの『北方譚詩』二曲は、トロッタ12を締めくくるにふさわしい曲になっていると確信します。以下に、『凍歌』の全詩を掲げます。「北の街角で聴いた女の声」は、あくまでも私の作品で、堀井さんによる音楽作品とは別のものであると、お断りしておきます。

凍歌 北の街角で聴いた女の声

木部与巴仁
*歌曲の場合、第一連の九行はレチタティーヴォで歌われることが望ましい 声部の別と順は作曲者の自由である

どこにいても
どこに生まれても
何を見ても
何を聴いても
誰を愛しても
誰に愛されても
私たちは歌うだろう
生と死のはざまで

風に流れる
この黒髪を愛で
去っていったあなたに捧ぐ
青空の歌
雲は千切れながら飛び
風は渦を巻いて吹く
北の町に冬が来た

淀みの水をすくい
草の根を食(は)み
焼けた土に身を焦がして
見えない道をゆく
あなた
何を考えているの?
ああ 聴いて
遠い町であなたを想い
強くあろうと願って歌う
女の声を

私はここに
あなたはどこ?
あなたの町は今も
わたしのあなたはどこへ?
見るものは違っても
歌声はひとつ
あなたの声が聴こえてくる
北風に乗って

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