2009年11月16日月曜日

「トロッタ通信 10-8」

 このブログを読んでいただいている、ある方から、お便りをいただきました。厳しい御意見であり、すべては紹介できませんが、頭に置きながら書いていきます。私自身にも思い当たることはあるからです。どんな意見でも、それを受けて原稿の内容が深まり、広がりますから、ありがたいと思います。私の姿勢は、基本的に、どのようなものでも受け入れることにあります。作曲家の方の詩の改変も、私は受け入れます。受け入れるという姿勢から、トロッタは始まっています。


 お便りの内容です。

 詩人と作曲家の共同作業について。作曲家はまず、詩を誤読しないことが大切です。誤読しない範囲でなら、詩を改変してもいいのではないでしょか。しかし、過去のトロッタで演奏した曲には、明らかに誤読、あるいは詩の主題を変えてしまったものが見受けられました。詩人と作曲家が、よく話し合う必要があるのではありませんか。話し合いもせず、できた曲について、あれこれと書いている「トロッタ通信」には、いささか疑問を感じます。

 このような主旨でした。

 

 作曲家は、誤読してもいいのではないか、という気持ちがあります。誤読して完成度が高ければ、あるいは他人が真似できないほど実験精神に富んでいれば、詩を超えておもしろくなったのだから、誤読してもいい。他人に対してはそう思いますが、仮に私が作曲家なら、誤読はしないよう努めます。

 作曲家は、詩人の作品を、ただの材料にしていいわけがありません。詩を好き勝手に扱って、したいことをすればいいという態度は、詩人への裏切りだと思います。トロッタの作曲家に、そんな人は一人もいません。反対に考えて、作曲家の譜面を、演奏者が勝手に解釈し、勝手に演奏すれば、やはり作曲家は怒るでしょう。それと同じことが、詩に対してもいえるはずです。私は、詩唱者として、譜面に忠実でありたいと思います。作曲家の意図どおり、できるできないはともかく、最大限の努力を払いたいと思っています。

 さて、田中隆司さんの『捨てたうた』の続きを、見て行きましょう。登場人物の言葉が交錯していきます。声部が重なっていきますから、正確に記すことは難しいのですが、雰囲気をつかんでいただければと思います。


  *


(男)

三十年が経つ

初めて出会った

あの瞬間

二十歳のあなたは

まぶしかった


  *


『約束 1977年のために』から取られています。

ただ、原詩では、これは女の台詞です。田中さんは、女から男へ、語り手を変えました。

原詩に、こんな箇所があります。詩の締めくくりです。


  *


あなたが流した

血と涙を

私はきっと忘れない

子どもがね

死んでしまったあなたと

もう同じ年なのよ


早過ぎる落ち葉に

私の心は

釘づけられて

ふたりで暮らした

あの町を

訪うこともなく

私はあなたを

想っている


  *


『約束 1977年のために』は、死んでしまった男を想う、女の詩です。


  *


(駅員)

三鷹行電車が参ります

危ないですから下がって下さい


(きみ 娘)

この部屋で

何もかも忘れて

一日中

愛しあっていたい


ルラルラ ルラルラ

ルラルラ ルラルラ


鳥を見たわ


(黒衣の女)

ククク


(男)

ルラルラ ルラルラ

ルラルラ ルラルラ


  *


きみ(娘)が歌い出します。黒衣の女が歌い出します。男が歌い出します。

「ルラルラ」という歌の言葉を、私は、田中さんの歌で初めて聴きました。どこかにあるのかもしれませんが、田中さんの心、身体から発せられた歌声だと思います。

それだけに、これは詩唱者が、自分の歌にしなければなりません。私には違和感があります。もとより、私の詩にはない言葉です。作曲者の意図に忠実に、というのはそういうことでしょう。自分の声で歌いながら、自分の歌にしてしまってはいけないと思います。さらにいうなら、この男に限っていえば、私が作り出したキャラクターであり、私自身といってもいいのですが、私そのままを演じることは、それ自体が矛盾した言い方ですから、私は他人として、この男になろうと思っています。


  *


(きみ 娘)

緑色した

尾羽の長い鳥が何羽も

群を作って飛んでいった

聴いたことのない声で鳴きながら

鉄道ビルの方へ


(黒衣の女)

フウ


フウ フウ

フウ フウ

フウ フウ


(男)

ルラルラ

ルラルラ ルラルラ ルラルラ

ルラルラ ルラルラ


(駅員)

ホームの端を歩かないで下さい


(きみ 娘)

裸のまま

遠い部屋で愛しあっているわたしたち


ルラルラ

ルラルラ


ルラルラ

ルラルラ


(男)

ルラルラ

チチ

ルラルラ

チチ


ルラルラ ルラルラ


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