2010年1月2日土曜日

2010年、最初の詩です

「夜が来て去ってゆく」を書きました。
この詩が、どのように使われるか、どのようになるか、お知らせは後日、いたします。
まだ、書いたばかりなのです。
トロッタ11のための詩ではありませんが、すべてはひとつの、大きな流れの中で生まれますので、掲げさせていただきました。


夜が来て去ってゆく

木部与巴仁

ドアを開けると
町の灯(ひ)が見えた
星屑に似ていた
人が生きて死ぬ場所だ
そっとドアを閉めた

ドアを開けると
川が流れていた
黒く重たい川だった
浪漫川という名を思い出した
そっとドアを閉めた

ドアを開けると
花が咲いていた
赤い花だった
血の色に似ていた
手ですくおうとして止めた

ドアを開けると
男が身を投げた
私は男を知っていた
彼が見た最期の光景を想像した
それは青い空だった

ドアを開けると
子どもがいた
男の子だった
女の子もいた
ものもいわずに立っていた

ドアを開けると
風が吹いた
雲がちぎれて飛んでいった
心細かった
そっとドアを閉めた

ドアを開けると
夜だった
女が男を殺していた
生まれ変わりたかった
生まれ変わらなければならなかった

ドアを開けると
泣き声がした
人形たちが泣いていた
行き場がないのだ
そっとドアを閉めた

ドアを開けると
燃えていた
私の家だった
思い出した
あれは七つの時だった

ドアを開けると
私がいた
老いた眼で見つめていた
ひとりだった
そっとドアを閉めた

ドアを開けると
階段があった
上(のぼ)ろうと思った
下りようと思った
足をかけたまま動けなかった

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